エストニアの離島、キヒヌ島の生活を覗いてみる

エストニアの離島、キヒヌ島の生活を覗いてみる

Source: Julia Kivela, Visit Pärnu

Written by:
Hillary Millán
Visit Estonia content creator

女性の島。ヨーロッパ最後の母系制。女性が運営する島。これらの見出しはキヒヌ島を表す言葉としてよく使われているが、どれも正確ではない。

漁師であるキヒヌ島の男たちは、何カ月も海に出ていた。キヒヌ島の女たちは島に残り、必要に迫られ日々の生活に多大な責任を負ってきた。それは、今でも変わらない。女たちは農場を維持し、子供たちを育て、男たちは漁師として、商船や本土で生計を立てている。外国人ジャーナリストのヒラリーは、キヒヌ島の文化のこの様な特殊な側面に注目している。恐らく、現代の欧州連合(EU)でこのような島の体制を見つけることは難しいからだろう。


キヒヌ島が母系制でないとしたら、それは何なのか?

地元ガイドのマレ・マタス(Mare Mätas)は、この不正確さをすぐに指摘した。キヒヌ島の文化は母系制ではない、と彼女は説明する。男性の仕事は女性とは異なるが、島の文化を維持するために重要だと彼女は説明する。既婚女性の方が地位が高く、離婚は一般的ではないとも言う。フェリーが定期便で運行され、5Gが普及する以前は、男性は遠く離れた土地との繋がりを提供してくれ、しばしば島に住む女性たちのために新しいスタイルの服や歌、あるいはパートナーを持ち帰った。しかし、彼らの伝統的な仕事(自給自足の漁業、アザラシ狩り、海鳥の卵集め)は、今日の商業経済と一致していない。

男性が海に出たり本土で働いたりしている間、女性は家庭や農場、文化の管理者である。家を建て、修理し、世話をし、教育する。出産を管理し、死者を埋葬する。結婚式では、彼女たちは長い間歌い続け、招待客はパーティが始まるまでに待ちくたびれてしまう。

文字通りの意味でも、比喩的な意味でも、女性たちがキヒヌ島の歯車を動かしているのだ。キヒヌ島独自の文化を存続させるためには、男女双方の伝統的な役割が不可欠だからだ。しかし、伝統的な "女性の仕事"(機織り、編み物、料理)は、キヒヌ島が今日頼りにしている観光経済にとても適している。

昔ながらの伝統と現代的な道具

キヒヌ島の女性たちが色鮮やかなストライプのスカートを履いているのを見るのは、この島を訪れる観光客にとってハイライトとなるだろう。実際、マレは既婚女性であることを示す花柄のエプロンを付けストライプのスカートをはいている。彼女はキヒヌ博物館にあるスカートのコレクションを指し示しながら、どの色のスカートが女性の独身、既婚、喪服を現しているのかを説明する。彼女自身のワードローブにも何十着ものスカートを持っている。

キヒヌ島のスカートのストライプ模様は、コミュニティにおける彼女の地位を示す。

脇にあるスリットから使える便利なポケットが下に隠れており、ほとんどの女性は編み物を入れたバッグを腰に下げている。既婚女性はカラフルなコットンのエプロンを上に着ける。

Photo by: Priidu Saart


キヒヌの文化的空間は2008年にユネスコの無形文化遺産リストに登録され、カラフルなウールのスカートやセーター、ミトン、結婚式の儀式が、その決定に大きく取り上げられた。キヒヌ島が人の住む島として初めて文献に登場したのは16世紀のことで、多くの風習はそれ以前に遡る。例えば、ルーン文字の結婚式の歌は2000年以上前から歌われ、口承による伝統と親族関係の結びつきがあったキリスト教以前の時代にまで遡る。


キヒヌ島の文化は古いかもしれないが、停滞はしていない。マレはストライプのスカートとともに、歩数を記録するアップルウォッチを身につけ、1日中メッセージをチェックしている。それは、YouTubeの料理チャンネルで有名なドイツ人女性の撮影クルーが同行する訪問を調整するためだ。彼らは古い農家の庭で、伝統音楽と踊りのコンサートを待っている。

コンサートが始まった。一人の女性はアコーディオンを抱えて座り、もう一人はバイオリンを顎の下に挟んでいる。少し遅れて、二人の女性が小さなセダンで道路を走ってくる。彼女たちは編み物をしながら、歌う人たちに加わり、立ち上がって踊り始めた。リーダーが歌い手や踊り手たちを紹介し、観客に自己紹介を求めた。リーダーは観客をダンスに誘うが、参加する勇気のある者はいなかった。

キヒヌ島の伝統的な音楽はバイオリンとアコーディオンが特徴で、編み針の安定したクリック音が伴奏となる。

Photo by: Martti Volt


マレはミュージシャンがいないことを詫びている。本来なら、何人かの若者たちがアンサンブルに加わり、学校で習った歌や踊りを披露するのだが、小学生たち(41人全員)は課外授業の旅行で本土に行ってしまったのだ。 

島の幼稚園と小学校では、生徒たちは民謡や踊りを習い、楽器を練習し、手工芸やキヒヌの方言の授業を受ける。そして、生徒たちは本土の高校に通うことになる。その先、彼らは島を離れ、他の場所で暮らすようになるかもしれない。これは、キヒヌの文化や伝統を守るための最大の脅威である。キヒヌの文化を守り続けるのは、この若い世代、つまり少年少女たちにかかっている。

持続可能なキヒヌ島訪問のヒント

ハイランド牛は、岩だらけの海岸と道路の間で草を食べており、中には胸ほどの深さまで水に浸かっているものもいる。ごつごつした岩の間からは黄色い野草が顔を覗かせている。背の高い松が灰色の雲に穴を開け、ライラックの茂みが道路沿いに立ち並び、民家を囲んでいる。灯台の横の砂地からも、ライラックの小さな紫色の花が顔を出している。

キヒヌ島の生活は、何世紀にも渡ってそうであったように、季節に従っている。5月下旬は観光シーズンの始まりであり、収穫期と同じくらい重要である。

多くのエストニア人と同じように率直なマレは時々、観光客が島上空を飛行中に自然とお金が降ってくればいいのにと思うことがあるという。しかし、彼女は、島を訪れる人々、コミュニティと関わりたいと思っている人々と島を共有することが、伝統を守り続ける方法の 1 つであると考えている。

  • 1泊でも、2泊でも、それ以上でもいい。ホームステイでもガイド付きツアーでも、島で過ごし、地元の人々と交流することは、島での生活を理解するのに役立つ。
  • 二輪(または二足!)で移動します。 ソ連時代のバイクはもうほとんど使われていませんが、自転車は移動に最適な手段です。 島は平坦で道路も整備されています。 さらに、Visit Kihnu は、Kihnu Travel Wheel と呼ばれる島の特別なセルフガイド自転車ツアーを作りました。大人数のグループや荷物をお持ちの場合は、オープンバックトラックでの移動を手配できます。
  • 島に住んでいるかのように食べる。つまり魚をだ。フィッシュカツレツ、魚の燻製、バルト海のニシンの蒸し煮、魚は主食であり、ジャガイモ、黒パン、自家製ピクルス、ジャム、それから庭で育つものなら何でもある。料理はシンプルだがボリュームがあり、愛情を込めて作られる
  • ハンドメイドを買う。島の女性たちが作る手工芸品は印象的です。島の編み物師は、世界中の編み物をする人たちにワークショップを行ってきた。 地元のアーティストをサポートすることは、これらの工芸品を存続させる方法の 1 つである。


島を訪れる人々のための実用的な詳細

キヒヌ島は本土から10キロ離れたリガ湾に浮かぶ人里離れた島のように見えるが、そこに行くのは驚くほど簡単である。旅に出るときは、何を期待すればいいのか知っておくのが一番だ。

いつ訪れるべきか

どの季節にも特別なものがある。しかし、島の文化を存分に体験したいのであれば、毎年開催される文化イベントの時期がベストだ。最も人気のあるイベントは、5月初旬のバルティック・ニシン・フェスティバル、6月最初の週末のホーム・カフェ・デイズや夏至祭、7月の海フェスティバルなどがある。旅行を計画する際には、ローカルのカレンダーをチェックして、何が開催されるかを確認しよう。

キヒヌ島への行き方

パルヌから30分ほど離れた場所にあるムナライド港(Munalaid)からフェリーが出航している。ムナライド港へは、パルヌのバスターミナルからバスで行くことができる。フェリーは設備が整っており、トイレ、コーヒーや軽食を販売するカフェ、屋内または屋外のデッキ席、子供の遊び場、着替え台など。フェリーの所要時間は約1時間で、氷を突き破ることもある冬を含め、季節を問わず一年中運航している。特に特別なイベント時に行く場合は、前もってチケットを予約することをお勧めする。

島での買い物

島にはATMはないが、ほとんどの店でカード払いか銀行振込ができる。オフシーズンには多くの店が閉まるが、通年営業しているのはKurase KauplusKihnu Poodの2店。夏の繁忙期以外に訪れる場合は、カフェが開いているかどうか電話で確認するか、前もって食事の手配をしておこう。

見どころ

最初に訪れるべき場所は、キヒヌ博物館だ。詳細な展示品から、この島の歴史と文化をよく理解できるだろう。通りの向かいにある教会が開いていれば、訪れてみよう。また、キヒヌ灯台の頂上まで登れば、絶景が待っている。

キヒヌ博物館の詳しくてカラフルな展示品をお見逃しなく。

Photo by: Priidu Saart


キヒヌ島はスローな旅に理想的な旅先だ。島を訪れると決めたら、自分の選択がキヒヌ文化の維持に貢献していることを知ってほしい。シンプルな家庭料理を味わう。編み物に挑戦する。勇気を出してダンスに参加する。立ち止まってライラックの香りを嗅いでみよう。


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